「慰謝料」とは、違法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償のことをいいます。離婚の際に慰謝料が問題となるのは、不貞や暴力などがあった場合です。
①不貞や暴力などの行為から生じる精神的苦痛に対する慰謝料
②離婚そのものから生じる精神的苦痛に対する慰謝料
実務上、一番問題になるのは当事者一方に不貞があった場合です。これについては、2以下で解説します。
暴力、婚約破棄、内縁関係の解消、ストーカー行為に対する慰謝料が認められた裁判例もあります。
裁判所に不貞行為、すなわち肉体関係の存在を認めてもらうためには、しっかりとした証拠が必要です。
例えば、最も直接的な証拠は肉体関係の現場写真ですが(携帯電話のカメラ機能で撮影したものでも証拠となります)、他にも、①ラブホテルに出入りする写真を撮影し、ホテルの滞在時間等を証明する、②どちらかの自宅で朝まで滞在した、③メール等のやり取りから肉体関係が明らかになっているなど、裁判所に、「これはどう考えても肉体関係を持った」という程度まで推認させる証拠が必要になります。
不貞行為の立証の問題については、一度、弁護士にご相談ください。
不貞相手への慰謝料請求の場合、配偶者が不貞相手に、自分が既婚者であることを隠して不貞行為を行った場合には、不貞相手には慰謝料請求をすることができません。不貞相手が、既婚者であることを認識していることが必要です。
不貞行為の立証ができた場合であっても、不貞行為当時、すでに別居していた等、夫婦の婚姻関係が破綻していたと認定された場合には、不貞行為が違法とは評価されず、慰謝料請求は認められませんので、ご注意ください。
不貞の慰謝料は、2人で共同して被害者の権利を侵害したことになりますので、共同不法行為(民法719条)として不真正連帯債務となります。
仮に慰謝料が300万円であったとすると、不貞をした当事者はいずれも被害者に対して300万円の支払義務を負い、被害者から300万円の請求があった場合に、「全体で300万円なのだから自分は150万円しか払わない」といって支払いを拒むことができません。
被害者に支払った慰謝料について、当事者間の負担をどうするかという点については、不貞をした当事者間の求償の問題として扱われ、当事者同士で協議等をして定めることになります。
慰謝料には、明確な基準はありませんが、裁判例上の相場としては100万円から300万円が多いです。
例えば、不貞行為に基づく慰謝料請求の場合、裁判所が慰謝料の額を決定する際に考慮する事情としては以下のようなものが挙げられます。
請求する相手方に対し、内容証明通知を送る、協議の場を設けるなどして、慰謝料の請求をします。
慰謝料を後日支払う、分割で支払うといった合意がなされた場合には、公正証書を作成することをお勧めいたします。
離婚調停の中で慰謝料についても請求することが可能です。
不貞相手への慰謝料請求についても、不貞行為を行った配偶者と同時に請求する場合には、家庭裁判所における調停手続を利用することが可能です。
調停の中で、「慰謝料として金○万円を支払う」ということを合意した場合、その調停調書が債務名義となり、支払いがされない場合に強制執行を行うことが可能となります。
しかし、調停はあくまで当事者間の合意が成立しなければ解決に至りません。
調停が不成立となった場合には、裁判所に対し、訴訟を提起することになります。
慰謝料請求の場合には、離婚の場合と異なり、調停の手続きを経ずとも、いきなり訴訟を提起することが可能です。
訴訟の場合、不貞行為や暴力等、違法行為の事実を立証しなければなりません。そのためには、しっかりとした証拠が必要となります。
また、訴訟の場合には、一概には言えませんが、第一審だけでも1年程度の年月を要します。
慰謝料請求は、その損害および加害者を知ってから3年で時効となります(民法724 条)。不貞行為や暴力に基づく慰謝料請求の場合には、不貞行為や暴力の事実を知ってから3年、離婚に伴う慰謝料請求の場合には離婚から3年ということです。
ただし、夫婦間における、不貞行為や暴力に基づく慰謝料請求の場合、3年を経過していても、離婚から6ヵ月以内であれば、時効は完成しないとする特則があります(民法159条)。